キャプション作品解説


各作品の解説を掲載します。


ウジェーヌ・ドラクロワ《ファウストとワーグナー》


世界の根本を束ねているものは何か

 ドラクロワによる初めての本格的な連作リトグラフが『ファウスト』の挿絵である。本作品はその中で、学者ファウスト(中央右)と助手ワーグナー(中央左)の会話の場面を描いたものである。様々な学問を修めたものの、自分が何一つ知らないことを嘆く学者ファウストの苦悩が、周囲の行楽の人々との対比で描かれている。



アントニ・タピエス《SenanqueⅠ》


生、怒り、絶望__スペインの巨匠が描く抽象

 アントニ・タピエスは、スペインアート界の巨匠である。カタルーニャをルーツに持ち、戦争を経験した彼の作品には、生、怒り、絶望が生々しく表現されている。この作品は、セナンク修道院で開催された展覧会の下絵で、落書きのような筆致や、十字架を表した「+」、禅の影響を想起させる墨跡が印象的に用いられている。



吉原英雄《短毛犬(版画集『ペットショップ』より)》


ちょっとずつ違う、いぬ

 現代日本の版画家、吉原英雄(1931-2007)によるリトグラフ作品。この作品では、描かれる視点や線の濃淡が異なる複数の犬が描かれている。同一のイメージを反復しているはずなのに、その切り取られ方や描き方によって私たちに与える印象が全く異なる。「イメージの反復やズレ」という吉原の一貫した追及が現れた作品。



加納光於《稲妻捕り PF.no.8》


一瞬の流動を生け捕りに

 様々な手法に取り組んできた加納が初めてリトグラフに挑戦した《稲妻捕り》シリーズ。初期のモノクローム作品を経て、本シリーズでは色彩が立ち上る。親交の深かった詩人で美術評論家の瀧口修造の影響を受けたデカルコマニー的手法が使われている。精巧に描かれた博物誌的印象を与えるイメージは、加納作品の多くに登場する。



原健《STROKES 74-11》    


色彩から見る腕の動き

 原健(1942~)によって制作された作品。この作品は人間誰もがする腕の一振りの動きを表現しており、形だけでなく色のグラデーションからも動きの向きや過程を想像することができるようになっている。リトグラフの透明感のある色彩をローラーでぼかすことでできるこの作品は、リトグラフでしか表現できないものとなっている。



東谷武美《日蝕O》



氷×版画、未知の出会いが生む変化

 東谷は、氷が融ける様子に静寂のなか変容し続けるエネルギーの存在を見出し、創作におけるテーマとしている。「日蝕」シリーズは特に、氷が本来の形を失いながらも変化を続けていくさまを鋭い感性で表現している。この作品では、氷からはイメージしづらい黒色を基調としたことで、むしろ氷が生み出す光と影が強調されているようにも見える。



鍔本達朗《In Black 85-5》



漆黒にうかぶかたち

 タイトル「In Black」の名の表わすとおり、版画技法の基本となる黒が巧みに活かされた作品。

中央部に描かれたモチーフは、その色使いで様々な顔を鑑賞者に見せる。

立体的な質感を思わせる細かな線と色の濃淡は、水と油の反発を利用したリトグラフの繊細な技法ゆえである。

一連の「in black」作品のうちの一つ。



渋谷和良《斜光林》


平面の中の立体の世界

 「斜光林」はリトグラフを用いた大型の版画である。使いやすいアルミニウムなどではなく 石版石を用いた点には作者のこだわりが込められている。一版ずつ色を加えることで重層 的で立体的な奥行きをつくり出している一方で、最前面に置かれた黒のストロークは筆の 動きを感じさせ、そして立体的な世界を平面に落とし込める。



元田久治《Indication-Tokyo University 3》


“自然に還っていく”安田講堂を描く

 東京大学の安田講堂が半壊して巨大な蔦に覆われる様が緻密なタッチで描かれ、非現実的でありながら奇妙なリアリティをもっている。本作品は都市が荒廃して自然に還っていく’’Indication’’シリーズの一つである。後方の建物や手前の中庭は安田講堂ほど崩れていない。これは日常と非日常の対比なのか、それとも後に自然に還る前触れなのか。

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